韓国の公営放送局MBC(文化放送)訪問:キムユジョン専門研究委員のミニレクチャーとインタビュー[森ゼミナール] 



UPDATE 2024-05-07

私たち国際学部森ゼミナール3期生(2023年度3年生ゼミ)は「The giver or The influence K-POPと市民的想像―」というテーマで共同研究を行ってきました。この度、2024年2月15日(水)には、共同研究に関わりのある韓国大衆文化(K-Culture)の影響力を調査するために、韓国の公営放送局MBC문화방송Munhwa Broadcasting Corporation/文化放送)を訪問し、専門研究委員キムユジョンさんにインタビューを受けていただきました。 

MBCは1959年に設立され、韓国国内外でテレビやラジオ放送を行っています。ドラマやニュース、バラエティなどの多様なジャンルのコンテンツを放送しており、韓国の放送業界において長い歴史と影響力を持つ最大手公営放送局の一つです。キムユジョンさんは、MBCコンテンツ戦略局コンテンツ戦略チームのメディアR&D(Research & Development)パートで専門研究委員として勤務し、コンテンツに関する調査研究に従事していらっしゃいます。当日、キム委員は「韓国コンテンツの海外進出という観点におけるコンテンツとプラットフォームの結合」というタイトルでミニレクチャーをしてくださった後、私たちの質問に丁寧に答えてくださいました。 

 

コンテンツ産業のリスク 

キム委員は韓国のコンテンツ産業は非常にリスキーな側面があり、ある意味でギャンブルと同じような性質を帯びていると指摘されました。事例として、一時期韓国ではゾンビに関わるドラマや映画がヒットしましたが、その後はその流行に乗るために数多くのドラマや映画がゾンビの要素を盛り込み始めたことを挙げられました。確かに、多くの視聴者は1つのゾンビ作品が面白かったと思うと、他のゾンビ作品にも興味が湧き視聴する傾向があります。しかし、全ての作品が視聴者の心をつかむわけではないので、当然売れない作品も出ることになり、そのような作品は淘汰されていきます。淘汰され捨てられる作品が大量に発生する可能性もあります。韓国のコンテンツ産業はこのような危険性を帯びていると教えていただきました。 

メディアコンテンツ産業の今と昔 

また、キム委員は、韓国メディア産業の今と昔の違いも説明してくださいました。 日本で問題になっている若者の「テレビ離れ」は韓国でも問題になっており、テレビ番組を視聴しているのは50人中およそ2人と減少しているようです。最近では人気のあるテレビ番組でも視聴率は5バーゼントほどしか取得できないということです。昔はコンテンツ産業においてはテレビ番組の視職率が最も重要でしたが、現在はSNSNetflix などのブラットフォームでのアクセス数やアクセス時間、そして評価(例えば「いいね!」の数)が重要であると教えていただきました。 

また、キム委員によると、人々がメディアコンテンツを視聴する時は、年配の方は3~4回見てからその番組が面白いかどうかを判断するが、若年世代は1回の視聴のみで面白いかどうか、このまま見続けるべきかどうかを判断することがほとんどであること、若年世代はインスタグラムやTikTokを通して短時間でコンテンツの情報収集をしている現状があるということです。そのため、長いコンテンツに慣れている世代と短いコンテンツに慣れている世代、両方に合わせたコンテンツを制作しているとキム委員はおっしゃいました。キム委員のお話の中で私(奥村)が最も印象に残ったことは、「流行は若者から発信されていくことが多いので、コンテンツを大量に生産するのではなく、SNSでどういったキーワードが流行しているのかなど『話題性』のデータ分析をすることがカギである」ということです。現代の「K-Culture」は若者たちの価値観や創造性によって発展していることを学びました。 

今回、キム委員にインタビューを受けていただき、韓国のメディアコンテンツ産業について深く考えさせられました。韓国のメディアコンテンツ産業はすべてが順調に発展しているわけではなく、大きなリスクを伴いながら作品製作をしているという事実が衝撃的でした。そして、激しい競争や高いリスクを伴う一方、新しいコンテンツの生産は創造力の向上や価値観の広がり、そしてサービスの発展に大きく繋がっているということも分かりました。 

また、キム委員が「韓流には強い『吸引力』があり、プラットフォームを通して、誰かの心に引っかかるように多種多様なコンテンツを制作している。そのコンテンツの中でも社会的意味を込めた作品が視聴者に社会問題を考えさせている」とおっしゃったことも重要なことだと思いました。韓国のメディアコンテンツ産業は韓国の社会問題に焦点を当てることで人々に影響を与える要因の1つであり、メディアコンテンツ産業を通して社会問題の改善や変化が促進される部分もあるのではないかと私(奥村)は考えました。 

業務でお忙しい中にもかかわらず、ミニレクチャーをしてくださりインタビューにも応じてくださったキムユジョン専門研究委員に心より感謝申し上げます。貴重なお話ありがとうございました。今回のミニレクチャーとインタビューの内容を整理して今後の共同研究に活かしていこうと思います。 

 

(外国語学部/国際学部 森ゼミナール 奥村珠帆)